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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(あ)1968号 判決 1953年12月18日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月及び罰金五千円に処する。

右罰金を完納し得ない場合には、金百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

第一審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人端元隆一の上告趣意は末尾添付の別紙書面記載のとおりである。

同弁護人の上告趣意は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし本件において、原審の確定した被告人の犯罪事実(第一審判決の認定による)は、被告人は、麻薬取扱者でないのに昭和二三年一二月一二日頃、岐阜市柳ケ瀬町四丁目遊技場ムーランにおいてAから塩酸モルヒネ(五瓦入)二本を譲受け且之を同所において所持したというにある。そうして、原判決は、右譲受と所持の各所為は夫々麻薬取締法(昭和二八年法律一四号による改正前のもの以下旧麻薬取締法という)第五七条一項第三条一項本文、第一条に該当するものとし、右両罪は併合罪の関係に立つものとして刑法第四五条前段の規定を適用処断したことは、所論のとおりである。

しかしながら、第一審判決挙示の証拠によれば、被告人が本件塩酸モルヒネをAから譲受けて判示の場所において所持したのは、同日午後二時頃から夕刻までの僅か数時間に過ぎず、被告人はこれを中国人陳某にその売却方を依頼して手交した事実が認められる。かくの如き場合、右麻薬の所持は、麻薬譲受の罪に当然吸収せられ、別に所持の一罪を構成するに至らないものと解するを相当とする。されば、本件につき併合罪の規定を適用した原判決は違法であり、この点において原判決は刑訴四一一条一項により破棄を免れない。

よって刑訴四一三条但書により更に被告事件につき判決することとし、原審の確定した事実を法律に照すと、被告人の判示麻薬譲受の所為は旧麻薬取締法五七条一項、三条一項、改正麻薬取締法附則一六項に該当する(行為後罰金等臨時措置法二条により罰金の寡額の制限に変更があったが、刑法六条、一〇条により軽い行為時法による)ところ、旧麻薬取締法五七条二項に則り懲役及び罰金を併科するを相当とし、その所定の刑期及び金額の範囲内において主文第二項の刑を量定し、罰金不完納の場合の換刑処分につき刑法一八条により主文第三項のとおりこれを定め、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条により主文第四項のとおりこれを定める。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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